月の途中で昇給した場合の報酬月額変更

昇給・降給と随時改定

社会保険の被保険者に昇給や降給があったとき、それが随時改定(報酬月額変更)の要件に該当した場合は、報酬月額変更を行うことで、社会保険料が改定されます。

ただし、昇給や降給があった場合につねに随時改定が行われるわけではありません。

基本給や手当などの「固定的賃金」に変更があったとき、変動月から3か月間に支給された報酬(給与)の平均額でみた標準報酬月額と、それまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じると、随時改定の要件に該当します*。
*他に、固定的賃金変動以降の3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上という条件もあります。

随時改定に該当する場合は、報酬月額変更届を年金機構や健保組合に提出して、標準報酬月額を改定します。その結果、毎月の社会保険料が変わることになります。

月の途中で昇給した場合の判定月は?

当事務所のお客様に、給与が15日締め(当月25日支給)で、10月1日に定期昇給のある会社があります。
10月1日に昇給すると、締日は10月15日なので、その月の給与に反映されるのは半月分だけです。この場合、上記の随時改定に該当するかどうかは10月・11月・12月の3か月の給与でみるのでしょうか?
10月の給与では昇給という固定的賃金の変更によりその分の給与が増えていることは確かなので、それでよいような気がしますね。しかし違うのです。
日本年金機構の出している「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集 」に、次のような文言があります。

「昇給・降給した給与が実績として1ヶ月分確保された月を固定的賃金変動が報酬に反映された月として扱い、それ以後3ヶ月間に受けた報酬を計算の基礎として随時改定の判断を行う。」

(「随時改定」の問6)

これに従うと、10月1日に昇給して締日が15日である場合、昇給が1か月分確保される給与計算期間は、10月15日~11月15日となります。従って、月額変更に該当するかどうかは「11月・12月・1月」の3か月の給与でみることになります。

10月昇給のときにありがちなケース

最低賃金法による最低賃金が改定される月は、毎年10月です。なので、10月に定期昇給する会社は少なくありません。昇給日を最低賃金の発効日にしているという会社もあるのではないでしょうか。
上記のように、10月に昇給しても、その日が賃金計算期間の途中である場合、随時改定に該当するかどうかをみるのは11月・12月・1月の給与になります。これがじつは曲者なのです。というのも、1月支給給与の計算期間には年末年始が挟まるからです。
多くの会社には、年末年始休業があります。年末年始休業があると、月給の従業員でも、残業が減って給与が他の月に比べて少な目になりがちです。ましてパートなど時給の従業員は、労働日数の減少がそのまま給与に反映しますから、その傾向は強まります。
その結果、10月に昇給しても、11月・12月・1月の給与の平均額は1月の給与に足を引っ張られて(?)低く出てしまい、そのせいで随時改定に該当しない、ということも生じ得ます。
当事務所で使っているソフトウェアは、機械的に3か月の給与の変動をみて随時改定の候補者をリストアップしてくれるのですが、上に例として挙げた会社では、10月~12月の給与の平均をとるとそれ以前の標準報酬月額から2等級差が生じているにもかかわらず、11月~1月の給与だとそうはならない(だから随時改定に該当しない)、という人が実際に出ています。10月も昇給しているといえばしているわけですから、なんとなく釈然としない気分になります。
もっとも、これは10月昇給の場合に限った話ではありません。昇給がいつであっても、それ以降の3か月がたまたま忙しくない時期だったりする場合には起こりえます。随時改定というのは、そういう仕組みだということです。

随時改定を正しく行う

昇給しても随時改定に該当しなければ社会保険料が上がらないので、有利なようにも見えます。しかし私傷病で休業することになった場合の傷病手当金や、将来の年金額がその分上がらないということでもあるわけです。その影響は小さくありません。
しかし当然のことですが、将来の年金を増やしたいとか、社会保険料を下げたいとか、そうした気持ちに引っ張られて随時改定をしたりしなかったりを決めることはできません。上では「釈然としない」と書いてしまいましたが、どんなルールも完璧というわけにはいかないものです。だからこそ、法律や規則に基づき、正しく手続きや届け出をすることが、社会的な公正さを維持するために重要なのだといえます。

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