賞与からの社会保険料控除の話

前回の記事で、社会保険料は「翌月控除」「資格を喪失した月の社会保険料は発生しない」と書きました。

この話は月一度の給与を念頭に置いています。しかし、賞与にも社会保険料はかかります。では、その社会保険料はどのように決まるのでしょうか?

おさらい:毎月の社会保険料はどう決まるか

その前に、月ごとの社会保険料のおさらいです。前回の記事で、「毎月の社会保険料は『通常の給与額』に応じた一定額になる」と書きました。

社会保険料にも、雇用保険料と同様に、保険料率があります。異なるのは、料率をかける給与額の方です。雇用保険料では実際の給与額です。 一方、社会保険料では「通常の給与額」に応じた額で、原則として月ごとに変動しません。では、「通常の給与額」とは何でしょうか?

標準報酬月額と社会保険料

ここで正式の用語を使いましょう。「通常の給与額」は「報酬月額」と呼びます。資格取得届や算定基礎届、月額変更届などの手続きではまずこの「報酬月額」を1円単位で決め、次に50段階(厚生年金は32段階)の階層に分けて、どの階層に属するかを決めます。属する階層を代表する金額を「標準報酬月額」と呼びます。例えば報酬月額が29万円以上31万円未満の人の標準報酬月額は30万円となります。

社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は、この標準報酬月額に健康保険料率や雇用保険料率を掛けて決めています。

  • (給与の)雇用保険料=賃金額 × 雇用保険料率
  • (給与の)健康保険料=標準報酬月額 × 健康保険料率
    (給与の)厚生年金保険料=標準報酬月額 × 厚生年金保険料率

賃金は毎月変動し得るものですが、標準報酬月額は一度決まると変更要件に該当しない限り変わりません。これが、前回の記事で「社会保険料は毎月一定額」と書いた理由です。(従って、標準報酬月額が変更されれば社会保険料も変わります。)

*余談ですが、雇用保険や労災保険の場合は「賃金」と呼ぶのに、社会保険の場合にはなぜ「報酬」と呼ぶかというと、雇用保険や労災保険が原則として労働者だけを対象にしているのに対し、社会保険は役員など労働者でない人も対象に含むからです。役員の報酬は労働の対価でないのでこれを賃金と呼ぶのは適切でないんですね。

標準賞与額と社会保険料

さて、今回の本題である賞与の社会保険料の話です。

基本的な考え方はシンプルです。賞与の場合、標準報酬月額の決定に相当する面倒な手順はありません。実際の賞与額から千円未満の端数を切り捨てれば「標準賞与額」が決まります。賞与が41万5900円なら、標準賞与額は41万5000円です。この標準賞与額に保険料率を掛け、保険料の金額を出します。
雇用保険料の決め方にむしろ似ています。違いは、千円未満切り捨てをするかしないかだけです。

  • (賞与の)雇用保険料=賞与額 × 雇用保険料率
  • (賞与の)健康保険料=標準賞与額 × 健康保険料率
    (賞与の)厚生年金保険料=標準賞与額 × 厚生年金保険料率

計算方法は簡単ですが、問題は、いつの賞与が保険料の対象となるかです。

賞与から社会保険料を控除するタイミング

前回の記事では、「被保険者資格を喪失した月は保険料が発生しない」と書きました。しかし給与からの社会保険料控除は翌月控除が原則なので、資格喪失した月の給与からは「前月分の保険料を控除する」とことになる、とも書きました。

一方、賞与に「前月分」という考えはありませんし、もちろん「翌月控除」などということもありません。賞与を払う都度、その賞与から社会保険料を控除します。

これ自体は割と単純でわかりやすい原則ですが、なまじ給与からの社会保険料控除にクセ(?)があるばかりに、誤解してしまう恐れがあります。

例えば給与が25日に支給される会社があったとしましょう。この会社では12月に賞与が支給され、その支給日は給与と同じく12月25日であったとします。

ある従業員が12月26日に退職したとしましょう。12月25日に支給される給与と賞与からの社会保険料の控除はどうなるでしょうか?

給与からは社会保険料が控除されます。しかし、賞与からは社会保険料を控除しません

なぜかというと、この従業員の資格喪失月は12月だからです。資格喪失月の社会保険料は発生しません。だから12月に支給される賞与には社会保険料がかかりません。
一方、12月支給の給与からは社会保険料を控除しますが、それは「11月分」なのです。

規則通り素直に考えればわかる話なのですが、実際には、うっかりして賞与からも社会保険料を控除してしまうミスが起きがちです。そして、年金機構からの納付書で額が違うことに気づく…。

これはいつの時期に支払われる賞与でも起きうることですが、とくに12月に支払われる賞与の場合だと、年末調整のやり直しになる可能性があるので厄介です。うっかり12月末決算の会社だったりすると決算のやり直しにもなりかねません。

そうでなくても年末の忙しい時期はポカをやりやすくなってしまうものですので、12月退職者がいるときは「要注意」としてマークするようにしておきましょう!

[付記]

資格喪失月に賞与が支払われた場合は保険料は賦課されませんが、年間累計額をみるために、賞与支払届の提出は必要となりますので、その点も注意が必要です。

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