給与からの社会保険料控除の話
4月から総務部に配属となり、慣れない給与計算業務に悪戦苦闘している人もいらっしゃるのではないでしょうか。
とくに頭を悩ませるのが給与からの税や保険料の控除の計算ですね。主なものとして、源泉所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料があります。
社会保険料は「翌月控除」
この中で「曲者」が社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)です。
社会保険料はふつう、「翌月控除」です。つまり3月の保険料(被保険者負担分)は4月の給与から控除、4月の保険料(被保険者負担分)は5月の給与から控除…というように1か月ずれます。事業主負担分を合わせた保険料の納付期限は「翌月末日」になります。
例えば、4月1日に入社した新入社員の方の社会保険料を考えてみましょう。 社会保険料は4月から発生しますが、最初の給与、つまり4月支給の給与からは保険料を控除しません。4月の保険料の納付期限は5月末なので、給与からの被保険者負担分の控除も5月から始めます。
「翌月控除」のメリット
入社した当月に支給する給与から社会保険料の控除をしないことには、メリットがあります。
たとえば締日が毎月15日で、その月の25日に給与を支給する会社を考えてみましょう。(この会社では、在籍期間が締日の時点で1か月未満の社員については、日割にして給与を払うものとします。これはよくあるパターンです)。
この場合、4月1日入社の社員の給与は、1日から15日までの15日分に対応した額となります。半月分ですね。一方、社会保険料は通常の1か月分の給与額(報酬月額)に応じた固定額となっています。勤務が半月で給与額が少なくても、減額されません。
もし社会保険料が「当月控除」だったら、半月分の給与しかない月に1か月分が引かれてしまうわけです。こうなると手取りがずいぶん少なくなりますね。
それでも、半月分の給与があるなら控除は可能でしょう。しかし、もし4月16日入社の人がいたらどうでしょうか。締日より後なので、4月の給与はゼロです。ゼロから控除はできません*。もし社会保険料が「当月控除」なら、こういう問題が起きてしまうわけです。
*もっとも、欠勤などで給与額が過少となるケースでは、本人から社保料を徴収するなど対応方法はあります。
雇用保険料は?
雇用保険料は給与額に対して一定比率(雇用保険料率)をかけて「当月控除」します。額が固定されている社会保険料と違い、率で決まっているので、給与が少なければ保険料も少なくなります。給与がゼロなら雇用保険料もゼロです。
もっとも、雇用保険料について「当月控除」という言い方はあまりしないですね。「支給のつど控除」と言ったりします。(僕は「当月控除」と表現した方がわかりやすい気がするので、そう言っています。)
なお、雇用保険料は、労災保険料と合わせて「労働保険料」として1年に1度、1年分納付するだけです(実際にはもうちょっと複雑なのですが、ここでは簡単化のためこのように表現します)。毎月納付の社会保険料とは、この点も違います。
退職時の社会保険料
話を社会保険料に戻します。「ある月の社会保険料は翌月の給与から控除」が原則と書きました。では、会社を退職したとき、その月の社会保険料は翌月の(退職した後に支払われる)給与から控除されるのでしょうか?
これを考えるには、次の二つの原則を頭に入れておく必要があります。
- 社会保険の被保険者資格は、退職した翌日に喪失する。
- 資格喪失した月の保険料は発生しない。
たとえば、給与が15日締め・25日支給の会社で、3月20日に退職した人がいるとしましょう。
3月支給の給与はまるまる1か月分ですから、欠勤がなければ2月の社会保険料を問題なく控除できます。
一方、4月支給給与はわずか5日に対応した分ですから、もし社会保険料をそこから控除するとなると給与が不足する恐れがあります。しかし3月に被保険者資格を喪失しているのですから、実際には3月の保険料はかかりません。つまり4月給与からは社会保険料を控除しなくてよいということになります。
入社時と同様、退社時にもそう簡単に「給与額が足りなくて社会保険料が控除できない」という状態にはならないようにできているのです。
月末退職に注意
ところが、要注意のケースがあります。
それは、月末に退職するケースです。決して珍しいことではありません。僕も、社労士になるため勤めていた会社をやめたのは月末(6月30日)でした。
何が要注意なのか?
上に述べた通り、社会保険の被保険者資格は「退職した翌日」に喪失します。もし月末に退職すれば、資格喪失月は翌月になるわけです。
3月31日に退職した人がいるとしましょう。この人の被保険者資格喪失日は4月1日です。4月の保険料は発生しませんが、3月の保険料は発生します。なので、4月給与からは(3月分の)社会保険料を控除しないといけません。
一方、たとえば3月30日に退職した人は、3月31日が資格喪失日になるので3月の保険料はかかりません。同じ3月に退職しているのに、30日に退職すると4月の給与からの社保料控除がなく、31日に退職すると控除があるわけです。
これは基本的な理屈がわかっていてもこんぐらがりやすいところです。「月末退職の社保料控除は注意」と覚えておき、該当者がいるときは落ち着いて考えてみましょう(僕もそうしてます)。
賞与の場合
以上は給与の話です。
困ったことに、賞与からの社会保険料控除は、違う考え方をしないといけません。これがさらに混乱のもとなのです。いずれ稿を改めて書きたいと思います。