就労の権利を認める初の判決
労働者に対して就労権請求を初めて認めたとみられる判決が4月7日に出ました。
「大学教授 講義に就労請求権認める 慰謝料支払いを命令 東京地裁」(労働新聞2022.04.21)
就労の権利を主張できるか
記事にも書かれている通り、これまで、労働は契約に基づく義務であって、権利ではないと考えられてきました。たとえば労働者に賃金を払っておいて、何もさせないということも、それ自体としては違法ではありません。
それゆえに、解雇された労働者が裁判で地位確認請求を行い、認められて解雇が無効とされても、労働者が元の通り会社で仕事を続けられるとは限らないのです。もし会社から仕事を与えられなければ、居続けるのも辛いでしょう。
だから、今のところ解雇や雇い止めに対しては、無効の訴え(地位確認請求)による法的解決よりも、あっせんによる金銭的解決のほうが得策という考え方もできるのです*。
*2022年4月12日に、解雇無効時の金銭救済制度について労働基準局が実施する検討会で報告書がとりまとめられました。引き続き労働政策審議会で議論されることになっています。
この大学の事件では、いったん雇止めにあった教授がその無効を求める訴えを起こし、裁判により雇止めが無効とされたことが事の起こりでした。就業環境をめぐる争いなどを経て、大学側はこの教授に一切講義を担当させないという措置をとります。教授はこれを不服として訴えました。
「就労の権利」一般が認められたわけではない
今回の東京地裁の判決では、大学には教授に講義を担当させる義務があったと判示されています。
ただし労働者の就労権(使用者にとっては、労働を受領する義務)が一般に認められたというわけではありません。むしろ地裁は、原則として労務の提供は労働者の義務であって、使用者にはその受領義務はないとしています。
しかしながらこの大学教授の場合、雇用契約書に「最低週4コマ」という時間数が具体的に明示されていたという特殊事情がありました。だから契約上、使用者には講義を担当させる義務があったという判決になったのです。
日本では、解雇や雇止めには厳しい制約があり、争いになると労働者が有利となることが多いです。しかし、労働者に法的保護があったとしても、それで問題が片付くわけではありません。いったん労働者の解雇(雇止め)が無効とされても、もともと解雇(雇止め)したいと思っていた使用者側と労働者の間の信頼関係は、争いを経て大きく傷ついているでしょう。どうやってこの関係を修復し、再構築していけばよいのでしょうか? 裁判所はそこまでケアしてくれません。
結局、冷え切った労使関係や投げやりな雇用管理に耐え切れず労働者が「自己都合」で辞めていく、ということもありうる話ではないでしょうか。
この事件では就労権が認められるという画期的な判決が出ました。それでも、今後のこの教授をめぐる就労環境がはたして良い方向に向かっていくのかどうかはわかりません。
現在の法的制約を前提とするなら、結局は、そもそもこうしたトラブルに発展しないよう、労使がコミュニケーションをとり、合意という契約の基本に立ち返って、よい関係をふだんから築いていくほかないのだと思います。